はじめに:「抗菌薬に整腸剤をつける」は簡単そうで、実は奥が深い
「抗菌薬が出てるから、とりあえず整腸剤もつけておきますね」 薬局の現場では、こんな処方に毎日のように出会います。
でも、ここで何も考えずに
- ビオフェルミンR
- ミヤBM
- ビオスリー
を“なんとなく”見送っていないでしょうか。 若手薬剤師ほど、ここで一度は迷います。
「抗菌薬が出たら、絶対にビオフェルミンR?」 「ミヤBMやビオスリーじゃダメなの?」 「添付文書と実務って、どこまで分けて考えればいいの?」 整腸剤は一見地味ですが、処方意図を読む力が一番試される薬の一つです。
特に抗菌薬併用時は、「整腸剤がついているか」よりも、“その整腸剤が今の状況に合っているか” を考えることが重要です。
この記事では、抗菌薬併用時の整腸剤選びについて、
- なぜ整腸剤が必要になるのか
- ビオフェルミンR・ミヤBM・ビオスリーは何が違うのか
- 添付文書上のルールと、実務上どう考えるか
- どんな時に疑義照会や提案につなげるか
を、現場の薬剤師目線でわかりやすく解説します。
この記事の結論
抗菌薬併用時の整腸剤は、「とりあえずR」ではなく、抗菌薬の系統・患者さんの症状・添付文書の位置づけをセットで考えることが大切です。ビオフェルミンRはペニシリン系・セフェム系・マクロライド系で第一選択、ニューキノロン系ではミヤBMやビオスリーも有力な選択肢になります。詳しくは本文で。
※本記事は薬剤師が添付文書・ガイドラインをもとに作成した情報提供を目的としたものです。治療の最終判断は必ず担当医・薬剤師にご相談ください。
\ 添付文書にはない「現場の知恵」 /
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1. 抗菌薬併用時に整腸剤を考える理由
抗菌薬は、感染症の原因菌を抑えるための重要な薬です。
ただし、悪い菌だけをピンポイントで倒してくれるわけではありません。 腸内にはもともと、消化や免疫、便通の維持に関わる多くの常在菌がいます。
抗菌薬を投与すると、こうした腸内フローラ(腸内細菌叢) まで乱れてしまうことがあり、その結果として
- 下痢
- 軟便
- 腹部膨満感
- 腹痛
- お腹の違和感
といった症状が出てきます。
つまり、抗菌薬併用時の整腸剤は、ただ「おまけ」でついているのではなく、 抗菌薬によって乱れた腸内環境をどう支えるか という重要な役割を担っています。
「整腸剤がついているからOK」で止まらず、”今の抗菌薬・今の症状に合っているか”まで一歩踏み込む、それが薬剤師の腕の見せどころです。
2. 抗菌薬関連下痢で何が起きているか
ここを押さえておくと、整腸剤の使い分けがグッと楽になります。 抗菌薬関連下痢が起こる背景には、大きく2つのメカニズムがあります。
① 腸内細菌のバランスが崩れる
抗菌薬によって善玉菌が減ると、腸内のバランスが崩れます。 すると、本来は抑えられていた菌が優位になり、便の性状が乱れやすくなります。
② 腸内での発酵・代謝環境が乱れる
乳酸や酪酸など、腸内環境を整える物質の産生が低下すると、
「水分吸収が乱れる」「腸の動きが不安定になる」「ガスが増える」といった変化が起こりやすくなります。
つまり、抗菌薬関連下痢は「抗菌薬で腸が荒れたから、お腹が弱くなった」くらいの理解でも間違いではありませんが、実際には「菌そのものの減少」「菌のバランスの崩れ」「腸内代謝の乱れ」が複雑に絡み合って起きています。
だからこそ整腸剤も、「どの菌を入れるか」「どう働かせるか」で差が出てきます。
💊 もう一段深く理解したい方へ
酪酸菌・乳酸菌・ビフィズス菌がそれぞれ腸内でどう働くのかを根本から理解したいなら「すべての臨床医が知っておきたい腸内細菌叢」がおすすめです。整腸剤の使い分けの根拠がより深く見えてきます。
3. ビオフェルミンR・ミヤBM・ビオスリーはどう違うか
ここが今回の本題です。
① ビオフェルミンR:抗菌薬併用を意識した耐性乳酸菌製剤
ビオフェルミンRは、耐性乳酸菌製剤です。
名前の「R」は、Resistance(耐性)の頭文字。抗菌薬に耐える乳酸菌、というイメージで覚えておくと忘れにくいです。最大の特徴は、抗菌薬が存在する環境でも働きやすいよう設計されている点です。
そのため、
- 抗菌薬と一緒に整腸剤をつけたい
- 抗菌薬投与中の下痢を予防したい
- 抗菌薬による腸内フローラの乱れを防ぎたい
といった場面で第一選択となる薬です。
ビオフェルミンRそのものの仕組みや、通常のビオフェルミンとの違いだけを詳しく見たい方は、別記事でまとめています。
あわせて読みたい 抗菌薬の時は「R」が正解?ビオフェルミンRと通常の違いを薬剤師がわかりやすく解説 ビオフェルミンRと通常のビオフェルミンの違いを薬剤師がわかりやすく解説。抗菌薬併用でRが選ばれやすい理由、添付文書上の適応、疑義照会や代替提案の考え方までまとめました。
② ミヤBM:酪酸菌製剤という“大腸寄り”の選択肢
ミヤBMの主成分は、宮入菌(酪酸菌)です。 酪酸菌は、腸内で酪酸を産生します。
酪酸は大腸上皮の重要なエネルギー源の一つであり、大腸環境をしっかり支えてくれる頼もしい整腸剤です。 また、「芽胞(がほう)」というバリアを作る特徴があるため、胃酸などの厳しい環境にも耐えてしっかり腸まで届く、という強いメリットがあります。
そのため現場では、
- 抗菌薬併用時の整腸剤候補
- 大腸症状が前面に出ている時
- ビオフェルミンRが使いにくい時の、頼りになる代替薬
として活躍します。
③ ビオスリー:3菌配合で腸内環境全体を底上げするタイプ
ビオスリーは、
「糖化菌」「乳酸菌」「酪酸菌の3種配合製剤です。
特徴は、3つの菌が互いに助け合いながら、腸内環境全体を整えてくれることです。
「便秘と軟便を繰り返す」「腸内環境全体が不安定」という場面では、ビオスリーの出番です。
ただし、「ビオスリーに入っている3つの菌すべてが、どんな抗菌薬にも耐えられるわけではない」という点には注意しておきましょう。
あわせて読みたい 「整腸剤どっちでもいい」は損してる|ミヤBMとビオスリーの違いと使い分けを薬剤師が解説 ミヤBMとビオスリーの違いを薬剤師が解説。酪酸菌・3菌配合の特徴、抗菌薬併用時、便秘・軟便・大腸症状での使い分け、疑義照会フレーズまでまとめました。
4. 添付文書上のルールと実務上の考え方
ここは、薬剤師としてかなり大事なところです。
ビオフェルミンRの添付文書上の効能・効果
ビオフェルミンRの効能・効果は、 「抗生物質、化学療法剤投与時の腸内菌叢の異常による諸症状の改善」 ですが、具体的に対象として挙がっているのは
- ペニシリン系
- セファロスポリン系
- アミノグリコシド系
- マクロライド系
- テトラサイクリン系
- ナリジクス酸
つまり、添付文書だけを見るなら、 「抗菌薬が出ていれば何でもビオフェルミンRでOK」というわけではありません。
実務ではどう考えるか
一方で、現場ではもう少し広く「抗菌薬で腸内環境が乱れそう」「下痢が出やすそう」「予防的に整腸剤をつけたい」という意図で整腸剤が処方されることがあります。
ここで大事なのは、「添付文書上のルール」と「実際の処方意図」をすり合わせて考えることです。
- 添付文書の適応は通っているか
- 実際の患者さんの症状に合っているか
- 代替提案するなら何が妥当か
この3点を意識しておくと、疑義照会の場面でかなり落ち着いて動けます。
5. 抗菌薬の系統別にどう考えるか
ここは実務でかなり使えます。
ペニシリン系・セファロスポリン系・マクロライド系
このあたりは、添付文書の適応にも当てはまるため、ビオフェルミンRが第一候補になる代表的なケースです。 たとえば、
- オーグメンチン
- サワシリン
- フロモックス
- メイアクト
- クラリス
などが出ている時は、迷わずRを選択できます。
テトラサイクリン系
これも添付文書上の範囲に入ります。 ニキビ治療などで長めに使うケースもあり、整腸剤をしっかり意識したい場面です。
ニューキノロン系
ここが一番迷いやすいところです。
- クラビット
- ジェニナック
- ラスビック
などはビオフェルミンRの添付文書上の対象に含まれていません。
このため、「抗菌薬が出ているからR」と機械的に対応せず、ミヤBMやビオスリーも含めて選択肢に入れるのが実務的です。
実際には患者さんの下痢しやすさ、既往歴、過去の抗菌薬でのお腹トラブル、定期内服との兼ね合いも見ながら判断します。「ニューキノロン=ミヤBM」と決め打ちするのではなく、一つひとつ確認する姿勢が大切です。
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6. こんな時どうする?現場パターン別の考え方
パターン① 抗菌薬が出ていて、整腸剤も新規でついている
まずはその抗菌薬の系統を確認します。
添付文書の適応に当てはまっていれば、自信を持ってビオフェルミンRを提案できます。
パターン② 抗菌薬が出ているのに通常のビオフェルミンがついている
すぐ誤りと決めつけず、
- 定期薬として継続か
- 抗菌薬関連下痢を意識しているのか
- 単なるDo処方か
をしっかり見極めます。
そのうえで必要があればRへの変更を提案します。
パターン③ ニューキノロン系が出ている
ここは思考停止でRに飛びつかないことが大切です。
添付文書の対象外であるRを選ぶより、ミヤBMやビオスリーを選んだ方が処方意図として筋が通ります。
パターン④ 抗菌薬は終わっているのにビオフェルミンRが漫然と続いている
「今もRを続ける必要があるか?」を見直すタイミングです。
定期薬として惰性で続けていないか、薬歴もしっかり確認しましょう。
パターン⑤ ビオフェルミンRが欠品している
在庫の都合だけでなく、処方意図に沿う形でミヤBMやビオスリーを代替候補として医師に相談できると、薬剤師としての信頼に繋がります。
7. 疑義照会フレーズ
① 通常ビオフェルミン→Rを提案したい時
「今回、抗菌薬が併用されておりますので、通常のビオフェルミンよりもビオフェルミンRへ変更した方が適しているかと思いますが、調剤を変更してもよろしいでしょうか。」
② 抗菌薬がニューキノロン系で、R以外も相談したい時
「今回、抗菌薬がニューキノロン系ですので、整腸剤はミヤBM等へ変更した方が安心かと思いますが、ご意向いかがでしょうか。」
③ 欠品時の代替相談
「大変申し訳ございません、現在当薬局でビオフェルミンRが欠品しておりまして……。抗菌薬併用時の整腸剤としてミヤBMへの変更をご相談したいのですが、よろしいでしょうか。」
④ Do処方整理を相談したい時
「現在、抗菌薬は終了しているようですが、ビオフェルミンRが継続となっております。通常の整腸剤へ整理、あるいは中止も含めてご意向いかがでしょうか。」
8. FAQ
Q1. 抗菌薬が出たら、必ずビオフェルミンRですか?
A. 必ずではありません。
ただし、抗菌薬併用時にRが第一選択になるのは事実です。抗菌薬の系統や患者さんの症状次第で、ミヤBMやビオスリーも強力な選択肢に入ってきます。
Q2. 抗生物質と一緒に整腸剤が出ましたが、なぜいつもと違う薬なんですか?
A. 抗生物質の種類によって、腸に届きやすい整腸剤が変わるためです。
抗生物質の中には、普通の整腸剤の菌に影響するものもあります。今回の薬(ビオフェルミンRなど)は、抗生物質と一緒に飲んでも働きやすい設計になっているので、いつもと違う種類が出ることがあります。
Q3. ニューキノロン系でもビオフェルミンRでいいですか?
A. 「何でもRでOK」というわけではありません。
添付文書上の対象抗菌薬には含まれていないため、機械的にRとはせず、ミヤBMやビオスリーへの変更をしっかり検討したい場面です。
Q4. ビオフェルミンRはいつまで飲む薬ですか?
A. 基本的には、抗菌薬を飲んでいる期間(と、その前後の数日間)を想定して使われます。
何ヶ月も漫然と継続になっている場合は、一度医師に処方意図を確認してみましょう。
Q5. ビオフェルミンRの代わりにミヤBMは使えますか?
A. 単純な“同じ薬”ではありませんが、実務上の代替薬として相談されることはよくあります。
それぞれ菌種も特徴も異なるため、症状や処方意図を踏まえて判断します。
9. まとめ
抗菌薬が出たとき、整腸剤を「とりあえずR」で流さないことが大切です。
ビオフェルミンRはペニシリン系・セフェム系・マクロライド系で第一選択ですが、ニューキノロン系ではミヤBMやビオスリーも積極的に検討します。
添付文書上のルールと実際の処方意図を両方見ながら、今の状況に合った一手を選ぶのが薬剤師の仕事です。
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【参考文献】
1. ビオフェルミンR散・錠 添付文書(ビオフェルミン製薬株式会社)
2. ミヤBM錠・散 添付文書(ミヤリサン製薬株式会社)
3. ビオスリー配合錠・配合OD錠 添付文書(東亜薬品株式会社)
4. 日本化学療法学会「抗菌薬適正使用ガイドライン」
5. Blaabjerg S, et al. “Randomized Controlled Trial of Probiotics for Prevention of Antibiotic-Associated Diarrhea.” Postgrad Med. 2017;129(8):871-878.
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