【大人のADHD】ストラテラがない!供給不足時代の「薬の選び方」とインチュニブ切り替えの落とし穴

「アトモキセチン、今日も入らないってよ…」
「えっ、またですか…」

毎朝、調剤室でスタッフとこんな会話をしては絶望している薬剤師の皆さん、本当にお疲れ様です。いま現場では「需要増 × 供給不安定」という、ADHD治療にとって最悪の組み合わせが起きています。

大人のADHD受診者が急増している一方で、主要薬であるアトモキセチンの供給が(先発・後発ともに)不安定な状況が続いています。

そこで今、選択肢として急浮上しているのが「インチュニブ」への切り替えです。

今回は、ADHDという病気の基礎知識から、薬理作用・製剤的特徴まで踏み込んだADHD治療薬4種の完全解説、そして「アトモキセチンからインチュニブへ切り替える際の、絶対に外してはいけない指導ポイント」を解説します。

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目次

1. 【基礎知識】大人のADHDは「子供の延長」ではない?

薬の話の前に、少しだけ病気のおさらいをしましょう。
「子供の頃は元気な子で済んでいたのに、社会人になってからミス連発で適応障害に…」
これが、典型的な大人のADHDの発覚パターンです。

ADHD(注意欠如・多動症)は、脳の前頭前野の機能(実行機能)がアンバランスになることで起こる発達障害ですが、年齢とともに「困りごとの質」が変化するのが最大の特徴です。

「子供のADHD」と「大人のADHD」の違い

特徴子供の頃 (学齢期)大人になってから (社会人)
主な症状多動性が目立つ
(授業中座っていられない、走り回る)
不注意が目立つ
(ミス、忘れ物、納期遅れ)
※多動は「貧乏ゆすり」や「心のソワソワ」に変化
環境の影響親や先生がある程度カバーしてくれる
(忘れ物を届けてくれる等)
自己責任が求められる
(マルチタスク、スケジュール管理)
誰もカバーしてくれない
二次障害叱られすぎて自己肯定感が下がるうつ病、適応障害、不安障害
休職や退職に追い込まれる

大人の場合、目に見える「多動」は落ち着いていることが多く、一見普通に見えます。
しかし、頭の中は常に「脳内多動(思考のジャンプ・雑念)」状態で、仕事の優先順位がつけられなかったり、ケアレスミスを繰り返したりしてしまいます。

だからこそ、大人の治療では「不注意(ミス)を減らす」ことと、「二次障害(うつ等)を防ぐ」ことが最優先のゴールになります。

2. そもそも、なぜ効くの?「ラジオ」で理解するS/N比

ADHDの脳内では、情報の伝達がうまくいっていません。
これを「ラジオ」に例えると、薬の違いが直感的に分かります。

  • ADHDの脳内:
    放送(必要な情報)の音が小さく、周囲の雑音(ノイズ)が大きい状態です。これでは放送内容が聞き取れません。

ここに対するアプローチは2つあります。

  1. シグナル増強(コンサータ・ストラテラ・ビバンセ):
    放送の「ボリュームを上げる」アプローチです。
    シナプスのドパミンやノルアドレナリンを増やし、情報を強調させます。
  2. ノイズ除去(インチュニブ):
    雑音を減らすよう「チューニングを合わせる」アプローチです。
    後シナプスのイオンチャネルを閉じ、余計な信号が入らないようにします。

この「ボリュームを上げる(興奮系)」か「ノイズを消す(鎮静系)」かの違いが、副作用や使い心地の差に直結します。

3. 【プロ仕様】ADHD治療薬 4種のスペック完全比較

「効くまでの早さ」だけでなく、半減期や食事の影響、製剤の特殊性まで網羅しました。
※スマホの方は横にスクロールできます。

スクロールできます
薬剤名コンサータビバンセストラテラインチュニブ
成分メチルフェニデートリスデキサンフェタミンアトモキセチングアンファシン
タイプ中枢刺激
(ボリュームUP)
中枢刺激
(ボリュームUP)
非中枢刺激
(ボリュームUP)
非中枢刺激
(ノイズ除去)
薬理作用DA・NA
再取り込み阻害
DA・NA
遊離促進等
NA
再取り込み阻害
α2A受容体作動
効き始め服用後1〜2時間
(当日すぐ)
服用後1.5時間
(当日すぐ)
2週間〜
(徐々に安定)
1〜2週間
(徐々に安定)
持続時間約12時間約13〜14時間24時間24時間
用法1日1回 朝食後1日1回 朝食後1日2回 朝夕食後
(※成人は1回も可)
1日1回 夕食後
(※眠気対策)
主な副作用食欲減退、不眠
動悸、チック
食欲減退、不眠
頭痛、動悸
悪心(吐き気)
口渇、尿閉
傾眠(眠気)
血圧低下、徐脈
流通管理ADCP (厳格)ADCP (超厳格)なし
※供給不安定
なし

4. 各薬剤の詳細解説と指導のコツ

① コンサータ:最強の「On/Offスイッチ」とOROSの秘密

中枢神経刺激薬の代表格。ドパミントランスポーターをブロックし、シナプス間隙のドパミン濃度を一気に高めます。

  • 製剤のギミック(OROS技術):
    浸透圧を利用して薬液を少しずつ押し出す特殊な構造です。
    【指導の鉄板】:排便時に「抜け殻(白い錠剤のようなもの)」が出てくることがありますが、中身は吸収されています。「お薬がそのまま出てきた!」と驚かれないよう、事前説明が必須です。
  • メリット:
    飲んだ直後から「メガネを掛けたように」視界がクリアになる即効性。
  • デメリット:
    約12時間でスパッと切れます。夕方以降に急激な疲労感(クラッシュ)が出ることがあります。また、食欲不振の頻度が高い(約40%)ため、昼食が食べられなくなる人が多いです。

② ストラテラ:生活の土台を作る(現在入手難)

前頭前皮質のノルアドレナリン・トランスポーターを選択的に阻害します。ドパミンへの直接作用が少ないため、依存性がありません。

  • 特徴:
    24時間効果が続くため、「朝起きられない」「夜の家事ができない」といった生活全般の困り事を底上げします。
  • 代謝の個人差(CYP2D6):
    CYP2D6で代謝されるため、PM(Poor Metabolizer)の患者さんでは血中濃度が上がりやすく、副作用が強く出がちです。
    ※体質によって効き方・副作用の出方に差が出やすい薬です。
  • 副作用対策:
    初期の「強烈な吐き気」が脱落の最大要因です。「空腹時を避けて、食直後や食中に服用する」ことで軽減できることが多いです。男性(特に中高年)では「排尿困難」が出ることがあるので注意が必要です。

③ インチュニブ:覚醒させずに「ノイズ」を消す

もともとは降圧薬として開発された薬剤。前頭前皮質の「α2A受容体」を刺激し、神経伝達のノイズ(雑音)を減らすことで、情報伝達効率を高めます。

  • 特徴:
    コンサータ等の「興奮系」とは真逆の「鎮静系」アプローチ
    「多動・衝動性(カッとなる)」や「頭の中が騒がしい」症状に特に有効です。
  • 【絶対禁止事項】:
    徐放性製剤(マトリックス型)なので、「粉砕・噛み砕き」は厳禁です。一気に放出されると急激な低血圧を起こし危険です。
  • 副作用:
    眠気(80%以上)と血圧低下。導入期は本当に眠くなるため、少量(2mg)から開始し、慎重に増量します。
    この眠気は薬が効いていないサインではありません

④ ビバンセ:切り札の「プロドラッグ」構造

コンサータで効果不十分な場合の選択肢(2024年から成人適応拡大)。
成分は「リスデキサンフェタミン」。これは覚醒剤原料であるデキサンフェタミンに、アミノ酸の「リシン」がくっついた構造をしています。

  • なぜプロドラッグ?(乱用防止の化学):
    この薬は、赤血球にある酵素でリシンが切り離されないと活性化しません。
    つまり、スニッフィング(鼻から吸う)や静脈注射をして血中に直接入れても、酵素がないため「ただの効かない液体」にしかなりません。この賢い化学構造により、乱用を防いでいるのです。
  • コンサータとの違い:
    作用時間が約13〜14時間とやや長め。OROSのような物理的放出制御ではないため、患者さんによっては「効き方がマイルドで自然」と感じる場合もあります(個人差あり)。

5. 【重要】アトモキセチン不足で「インチュニブ」へ。注意点は?

アトモキセチンが入手困難な今、「登録不要・依存性なし」という共通点を持つインチュニブへの切り替えが増加している印象があります。
しかし、この2剤は「覚醒(やる気を出す)」vs「鎮静(落ち着かせる)」でベクトルが真逆です。

薬剤師として、以下の3点を必ず介入してください。

1. 「最初はめちゃくちゃ眠いです」と伝える

アトモキセチンのつもり(目が覚める感覚)で飲むと、眠気で仕事になりません。
「最初の2週間は眠気との戦いになるかもしれません。大事な会議がある日は避けて、週末の金曜の夜から飲み始めてみませんか?」
といった具体的なスタート時期の提案が有効です。

2. 血圧低下(立ちくらみ)への配慮

もともと降圧薬です。「お風呂上がり」や「朝の起床時」の立ちくらみに注意喚起をしてください。特に夏場や、もともと低血圧の女性は注意です。

3. 自己中断のリスク(反跳性高血圧)

ここが一番怖いです。急にやめると血圧が跳ね上がるリスクがあります。
「眠いからといって、勝手に飲むのをスパッとやめないでください。やめる時も徐々に減らす必要があるので、必ず相談してください」
と、コンプライアンス(アドヒアランス)の重要性を説いてください。

番外編:薬が安定するまでの「生存戦略」

ここまで薬の切り替えについて解説しましたが、効果が安定するまでの期間や、薬が手に入らない期間を「根性」で乗り切るのは不可能です。 薬剤師として提案したいのは、薬で脳のコンディションを整えつつ、「生活環境の工夫(ライフハック)」でミスを防ぐ仕組みを作ることです。

そこでおすすめなのが、ADHD界隈で「バイブル」と呼ばれているこの一冊です。

タイトルは厳ついですが、中身は「活字が読めない時でもパッと見て分かる」ようにデザインされており、薬の副作用で頭が働かない時でもスルスル読めます。 「やる気」などの精神論ではなく、「どうすれば物理的にミスがなくなるか」という具体的な生存戦略が詰まっているので、薬の調整期間を乗り切るための「装備」として、一冊持っておくことを強くおすすめします。

まとめ

今は「薬がない」という異常事態ですが、逆に言えば「患者さんに最適な薬を見直すチャンス」でもあります。

「薬が届かない」と嘆くだけでなく、「この薬にはこんな特徴があったな」「この副作用が出てないか確認しよう」と一歩踏み込むきっかけにしてみてください。

  • 「コンサータの抜け殻」の説明忘れはないか?
  • 「インチュニブの粉砕」をしていないか?
  • 「ストラテラの吐き気」で困っていないか?

それぞれの薬の「癖」を熟知している薬剤師だからこそ、この混乱期にできるフォローがあるはずです。

供給不足の時代だからこそ、「薬がない」を「薬を見直す力」に変えられるかが、薬剤師の腕の見せ所です。

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この記事を書いた人

ドラッグストア併設調剤薬局で十余年勤務してるうさぎ好き薬剤師。
ブログ『薬剤師の処方解析ノート』では、若手〜中堅の薬剤師さんに向けて、日々の処方意図を読み解く「思考プロセス」を記録しています。
現場で直面する疑問や、教科書プラスアルファの知識をシェアします。一緒に臨床力を高めていきましょう。

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