はじめに:今年こそ「アレルギー」を卒業したいあなたへ
「毎年、春が来るのが憂鬱……」 「薬を飲んでも眠くなるし、鼻水は止まらない」
2026年1月現在。まもなく本格的な花粉シーズンが到来しますね。 これまで多くの患者さんを悩ませてきた「シダキュア(スギ花粉の治療薬)」の出荷調整(品薄)ですが、ようやく供給が安定しつつあり、新規の患者さんでも始めやすい環境が整ってきました。
「よし、じゃあ今すぐ耳鼻科に行って始めよう!」
そう思った方、ちょっとだけ待ってください。 実はこの治療には、「始めてはいけない時期」と「今すぐ始めるべき薬」の2つがあるんです。
今回は、現役薬剤師の視点から、
- 昔の「痛い注射」と今の「舌下療法」はどう違う?
- スギ(シダキュア)とダニ(ミティキュア)、いつ始めるのが正解?
- 現場でしか聞けない「失敗しない始め方」
これらをどこよりも分かりやすく解説します。 「一生薬を飲み続けるのは嫌だ」と思っている方にとって、この記事が人生を変えるきっかけになるかもしれません。
「体質から変えたい」なら、この記事で解説している舌下免疫療法が選択肢になります。
ただし、
・今年の花粉シーズンはどう対処する?
・眠くなりにくい薬は?
・点鼻・点眼・OTCはどう使い分ける?
といった今シーズンをラクに乗り切る戦略も同時に知っておくと失敗しません。
薬剤師の立場から、2026年の花粉症治療トレンドをまとめた記事はこちら👇

1. 昔は「痛い注射」、今は「自宅で服用」? 進化した免疫療法
「アレルギーを根本的に治す治療」と聞いて、昔ながらの「減感作療法(皮下免疫療法:SCIT)」を思い浮かべる方もいるかもしれません。 あるいは、親御さん世代から「昔は注射に通うのが大変だったのよ……」という苦労話を聞いたことがあるかも知れませんね。
正直に言います。昔の治療は、本当に根気と忍耐が必要でした。
昔のスタイル(皮下注射)のここが辛かった
かつての治療は、アレルギー物質(エキス)を直接「注射」で体に入れていました。
- 痛いし、腫れる: 注射自体の痛みに加え、打った後に腕が赤くパンパンに腫れ上がることも珍しくありませんでした。これが辛くてやめてしまう子も多かったのです。
- 通院がとにかく大変: 最初は頻繁に、維持期に入っても月1回など、定期的に病院に通い続けなければなりません。 仕事や学校を休んで通院するのは、現代人にはハードルが高すぎますよね。
- リスクがあった: 注射で直接体内に入れるため、全身に回るのが早く、アナフィラキシー(重いショック症状)のリスクもそれなりにありました。
【実体験】私も大学生の時にやってました…
実は私自身、薬学生だった頃にこの「皮下注射(減感作療法)」を受けていました。これが本当に大変だったんです…。
講義や実習の合間を縫って、定期的にクリニックに通うのも大変でしたが、何より辛かったのが「腫れ」です。 注射を打った当日はもちろん、ひどい時は数日間腫れや痛みが引かないこともありました。
「アレルギーを治すためとはいえ、これを続けるのか…」と心が折れそうになったのを覚えています。
だからこそ、今の患者さんが羨ましいです。 痛い思いをして通院しなくても、「自宅で毎日、正しく薬を使うだけ」で治療ができるのですから。 あの頃の私が知ったら、間違いなく先生にお願いしていたと思います。
今の主流は「舌下免疫療法(SLIT)」です
しかし、医学は進化しました。 2014年頃から登場した新しい治療法(舌下免疫療法)は、注射ではなく「舌の下で溶かす錠剤」を使います。
- 痛くない・腫れない: 針は使いません。薬を「舌の下」に置くだけです。腕がパンパンに腫れることもありません。
- 自宅でOK: 最初の増量期以外は、月1回の診察で薬をもらうだけ。治療自体は毎日自宅でできます。
- 安全: 口の粘膜からゆっくり吸収させるため、注射に比べて重篤な副作用のリスクが格段に低くなりました。
2. そもそもなぜ効くの? 「猛犬を手なずける」メカニズム
「花粉症の原因である花粉を、あえて体に入れるなんて怖くない?」 そう思うのも無理はありません。 この治療法(アレルゲン免疫療法)の仕組みを、私はいつも「猛犬を手なずける訓練」に例えて説明しています。
うさぎ薬剤師の例え話:あなたの免疫細胞は「番犬」です
アレルギー体質の方の体には、ちょっと神経質な「番犬(免疫細胞)」が住んでいると思ってください。
- 花粉症の状態:
春になって、大量の花粉(泥棒だと思っている)がいきなりドカドカと家に侵入してきます。
番犬はビックリして、「ワンワン!あっち行け!(くしゃみ・鼻水)」と狂ったように吠え立てます。これがアレルギー症状です。 - 治療中(毎日):
そこで、泥棒ではなく「ごく微量の、安全な花粉エキス」を、毎日決まった時間に家に入れてあげます。
最初は番犬も「ウーッ…(喉が痒い)」と唸るかもしれません。でも、毎日毎日、少しずつ同じ相手がやってきます。 - 3年後には…:
番犬は学習します。
「あれ? こいつ、毎日来るけど敵じゃないな?」
こうして体を「慣れ(寛容)」させてしまえば、春になって本物の花粉が飛んできても、番犬はもう吠えません。
これが、薬で症状を抑えるだけの「対症療法」とは違う、根本的な体質改善が期待できる治療法の仕組みです。
【薬剤師・医療従事者向け】詳しい作用機序(TregとIgG4)
ここからは少し専門的な話になります。 現在の免疫学では、以下の2つのメカニズムにより免疫寛容(慣れ)が成立すると考えられています。
① 制御性T細胞(Treg)の誘導
なぜ「舌の下」なのか?
実は、口腔底の粘膜(舌の裏)には、アナフィラキシーの原因となる「肥満細胞」が少ない一方で、抗原提示細胞である「ランゲルハンス細胞」が高密度で存在しています。
この「暴走しにくく、学習させやすい環境」から取り込まれた抗原は、頸部リンパ節へ運ばれ、アレルギーを促進するTh2細胞ではなく、免疫を抑制する「制御性T細胞(Treg)」の分化を誘導します。
Tregは抗炎症性サイトカイン(IL-10やTGF-β)を放出し、アレルギー炎症全体のブレーキ役となります。
② 遮断抗体(IgG4)の産生
治療を継続すると、B細胞から「IgG4(遮断抗体)」と呼ばれる特殊な抗体が産生されます。
IgG4は、抗原が肥満細胞上のIgEと結合する前に、先回りして抗原をキャッチ(中和)してしまいます。
つまり、アレルギー反応のスイッチが押されるのを物理的に防ぐ「盾」として機能するのです。
3. 【受診前の注意】「どこの病院でもできる」わけではありません!
「よし、6月になったら始めよう!」と思っても、いきなり近所の耳鼻科や内科に行くのはNGです。 実は、舌下免疫療法を始めるには2つのハードルがあります。
① 「登録医」しか処方できない
この治療は、専門の講習を受けた医師(登録医)しか処方することができません。 「いつもの風邪薬をもらう先生」が登録医でない場合、「うちはやってないんだよね」と断られてしまいます。 事前に、製薬メーカー(鳥居薬品)の公式サイトにある「トリーさんのアレルゲン免疫療法ナビ」で調べてから受診しましょう。
② 「最初の1週間分の薬」がまだレア?
2026年現在、シダキュアの流通はかなり改善してきましたが、実はまだ「完全復活」とは言えません。特に、治療を始めるための「初回用(スターター)」の薬は、地域や薬局によっては在庫が確保しにくい状況が続いています。
「せっかく受診したのに薬がない」という悲劇を防ぐため、受診前に「これから舌下免疫療法を始めたいのですが、お薬の在庫はありますか?」と電話で問い合わせるのが、薬剤師おすすめの確実な方法です。
4. 舌下免疫療法はいつ始める?|スギは「6月」まで、ダニは「今」
仕組みと準備がわかったところで、一番大切な「タイミング」の話をします。
スギ(シダキュア):今は我慢の時
今、鼻がムズムズし始めている方も多いと思います。
「もう我慢できない!今すぐシダキュアを始めたい!」
その気持ちは痛いほど分かりますが、1月〜5月の「花粉飛散シーズン」に新規開始することはできません。
- 理由: 空から飛んでくる天然の花粉と、薬の花粉がダブルで体に入ることになり、副作用リスクが跳ね上がるからです。
【シダキュアのスケジュール】
- × 1月〜5月: 開始NG(※すでに治療中の人は継続OK)
- ◎ 6月〜12月: 開始ベストシーズン!
今の時期にできることは、「カレンダーの6月1日に赤丸をつけておくこと」です。
ダニ(ミティキュア):今すぐOK!
一方で、ダニ(ハウスダスト)には明確な季節がありません。
そのため、ミティキュアは1年中いつでも開始可能です。
「どうせ両方のアレルギーがある」という方は、スギが始められない今のうちに、まずミティキュア(ダニ)からスタートしてしまうのも賢い手です。
5. 失敗しないための「鉄の掟」。最初の1週間が勝負
いざ治療スタートです。ここからは「絶対に守るべきルール」をお伝えします。
ルール1:初回は必ず「病院」で飲みます
「薬局でお薬をもらって、家でゆっくり飲もう」……これはできません。
記念すべき1回目の服用は、必ず医師の目の前で行います。
その後、万が一のアナフィラキシー(ショック症状)が出ないか確認するため、院内で30分ほど待機する必要があります。
初回の受診日は、時間に余裕を持って行きましょう。
ルール2:最初の1週間は「慣らし運転」
この薬は、最初から全開で効かせるわけではありません。体をビックリさせないよう、「2段階」で濃度を上げていきます。
- 1週目(増量期): 濃度の薄い薬を使います。ここで「口が痒い」「イガイガする」といった軽いジャブを受けて、体に免疫の存在を教え込みます。
- 2週目以降(維持期): 問題なければ、濃度の高い「維持量」の薬に切り替えます。ここからが本当の治療スタートです。
【薬剤師のアドバイス】 最初の1週間は、口の中が腫れたり痒くなったりしやすい(口腔アレルギー症候群)ですが、免疫が反応しているサインの一つでもあります。ほとんどは数週間で慣れますので、怖がらずに続けましょう。
※ただし、息苦しい、全身に蕁麻疹が出た場合は即中止して救急対応が必要です。また症状の強さや持続には個人差があります。
ルール3:飲んだ後「2時間」は、風呂・運動・酒はNG
これが一番のハードルです。
薬を飲んだ直後に血行が良くなる行動をとると、薬の吸収が一気に進みすぎて副作用のリスクが高まります。
- 推奨タイミング:
- 朝イチ: 起きてすぐ、朝食の前に飲む(夜にお酒を飲む人向け)
- 寝る前: お風呂から上がって、体が冷めてから寝る直前に飲む(朝バタバタする人向け)
6. 舌下免疫療法の副作用|受診すべきか迷ったときの判断フローチャート
ここからは、舌下免疫療法を続けるうえで多くの方が不安に感じる
「副作用が出たとき、どう判断すればいいのか?」について整理します。
舌下免疫療法では、
・様子を見てよい反応
・すぐに相談すべきサイン
がはっきり分かれています。
そこで、患者さん自身でも使えるように
「副作用が出たときの判断フローチャート」を作成しました。
軽い反応はよくあります。大切なのは「様子見でよい範囲」と「受診すべきサイン」を事前に知っておくことです。
- 口の中がかゆい
- 舌の下が少し腫れる
- のどがイガイガする
- 服用を継続
- 数分〜30分で自然に治まればOK
- 数週間で慣れることが多い
- 息苦しさ/ゼーゼーする
- 全身にじんましん
- めまい・動悸
- 強い腹痛・嘔吐
- 当日中に連絡/受診
- 夜間・急激なら救急要請
- 軽い症状が毎日続く
- 1ヶ月以上改善しない
- 日常生活に支障が出ている
- 用量調整
- 一時休薬
- 中止判断
ただし、息苦しさ・全身症状が出たら、迷わず中止して連絡・受診してください。
※重要:
本フローチャートは一般的な対応例を示したものであり、 医師の診断や指示に代わるものではありません。
症状が急激に悪化した場合や判断に迷う場合は、速やかに医療機関へご連絡ください。
7. 舌下免疫療法が向かない人・やめた方がいいケース
絶対に避けるべきケース(禁忌)
- 重症・コントロール不良の喘息
- 過去にアナフィラキシーを起こしたことがある
- 重い免疫疾患がある
- 開始時点で強い口腔内炎症がある
安全性の問題から、原則として開始不可です。
慎重に判断すべきケース
- 毎日決まった時間に薬を飲めない
- 数年単位の継続が難しそう
- 副作用が出たときに自己判断しがち
- 定期受診が難しい生活環境
こうした場合、効果以前に「続かない」可能性が高いのが現実です。
薬剤師視点での本音
舌下免疫療法は、「効くかどうか」より「続けられるかどうか」が成否を分けます。
「忙しすぎる」「面倒になるタイプ」「自己判断で中断しやすい」……こうした方には、最初から内服薬・点鼻薬中心の治療の方が幸せなこともある。これが現場あるあるです。
8. 子どもに使う時の注意点
舌下免疫療法は、実は「子ども向きの治療」でもあります。
ただし、成功させるにはいくつか大事なポイントがあります。
① 「本人の理解」が何より大事
- 毎日
- 舌の下で
- 1分待つ
この3つを、本人が理解していないと失敗しやすいです。
「親がやらせる治療」ではなく、「子どもが一緒にやる治療」にするのがコツ。
② 最初の1ヶ月は「観察期間」
「口の中のかゆみ」「のどの違和感」「軽い咳」……子どもは症状を言葉にしづらいことがあります。
服用後30分は、「顔色・声・呼吸」を、さりげなくチェックしましょう。
③ 学校行事・習い事とのタイミング調整
服用後2時間は運動NGです。習い事・部活がある日は時間調整が必要です。
朝起きてすぐ、または寝る前の服用は成功率が高く続けやすい傾向があります。
【薬剤師から保護者への一言】
最初の1〜2ヶ月を一緒に乗り切れれば、その後は驚くほど楽になります。「最初だけ伴走」が、成功のコツです。
9. よくある質問(Q&A)
Q1. スギ(シダキュア)とダニ(ミティキュア)、両方やりたい時は?
A. 可能です!今は「連続飲み」もOKです。
スギ花粉症の人の約7〜8割は、ダニのアレルギーも持っていると言われています。 今のガイドラインでは、条件を満たせば併用(並行治療)が可能とされています。
【飲み方のルール】
- 開始時期はずらす: 万が一副作用が出た時に「どっちが原因か」分からなくなるのを防ぐため、まずは片方(例:ダニ)を始めて、1ヶ月ほど様子を見てからもう片方(例:スギ)を追加するのが一般的です。
- 慣れたら「連続」でOK: 以前は時間を空ける指導もありましたが、現在は一定の条件下で「続けて使ってOK」とされています。 ただし、「2錠同時に口に入れる」のはNGです。
推奨手順(リレー飲み): シダキュアを舌下に置く(1分待機 → 飲み込む)→ 5分休む → ミティキュアを舌下に置く(1分待機 → 飲み込む)→ 5分待ってから飲食・うがい。
Q2. 飲み忘れたら、翌日2回分飲んでいい?
A. 絶対にダメです!
倍量を飲むと、副作用のリスクが高まります。 飲み忘れた場合は、その日は飛ばして、翌日にまた「1回分」だけ飲んでください。
Q3. どれくらい続ければいいの?
A. 最低3年、できれば5年です。
「長い!」と思うかもしれませんが、一生薬を飲み続ける数十年と、頑張って体質を変える3年。 受験シーズンや就活の大事な時期に、眠くなる薬を飲まなくて済むメリットは計り知れません。
まとめ:今こそ「攻め」のアレルギー治療を
舌下免疫療法(シダキュア・ミティキュア)は、始める時期と続け方を間違えなければ、花粉症・ダニアレルギーの体質改善が期待できる治療法です。
- 昔のような「痛い注射」や「毎週の通院」はもう必要ありません。
- 供給不足だったシダキュアも、手に入りやすくなりました。
- スギは「6月」から、ダニは「今」から始められます。
まずは、お近くの登録医を探して「免疫療法に興味があります」と相談してみてください。 あなたの来年の春が、ティッシュ箱なしで笑って過ごせる春になりますように。
本記事は、添付文書・国内ガイドライン・臨床現場での一般的な知見に基づいて構成しています。

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