【精神科の漢方】「西洋薬は怖い」あなたへ。心の不調を整える7大漢方の使い分け完全ガイド

「精神科の薬(抗うつ薬や睡眠薬)は、一度飲んだらやめられなくなりそうで怖い…」

薬局の窓口で、そんな不安を打ち明けられることがよくあります。

「できれば西洋薬を使わずに、もう少し穏やかな方法はありませんか?」

そう相談されたとき、有力な選択肢となるのが漢方薬です。

漢方は、西洋医学のように脳の神経伝達物質に直接作用するのではなく、「心と体のバランス(気・血・水)の乱れを整える」というアプローチをとります。

今回は、精神科や心療内科で頻繁に処方される「3大・精神安定漢方」に加え、不眠や動悸に特化した「4つの名脇役」まで、薬剤師の視点で整理します。

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目次

1. 【一目でわかる】精神科・3大漢方薬の使い分けマップ

精神科で使われる漢方は数多くありますが、まず押さえるべきはこの3剤です。

番号で覚えている方も多いため、ツムラ番号も併記します。

項目抑肝散半夏厚朴湯加味逍遙散
ツムラ番号54番16番24番
イメージ怒りの鎮火剤喉のつまり取り女性の守り神
得意な症状イライラ、歯ぎしり
カッとなる怒り
喉の違和感(梅核気)
息苦しさ、不安
のぼせ、肩こり
気分の波が激しい
ターゲット神経が高ぶっている人
(認知症・子供含む)
ストレスを溜め込む人
胃腸が弱い人もOK
更年期・PMSなど
ホルモン乱れがある人

2. 基本の3剤:詳細解説と「意外な使い方」

① 抑肝散(54番):高ぶった神経を静める

名前の通り、「肝(かん:感情や自律神経)」の高ぶりを「抑」える漢方です。

もともとは「赤ちゃんの夜泣き(かんのむし)」に使われていましたが、現在では認知症の怒り・大人のイライラにも広く使われています。

こんな人に:些細なことでカッとなる、寝ている間に歯ぎしりをしている、常に神経が張り詰めている人。


② 半夏厚朴湯(16番):ストレスで喉が詰まるなら

強いストレスが続くと、「喉に何かが詰まっている感じ(梅核気)」が出ることがあります。

検査では異常がないのに違和感だけが続く――そんな時に使われるのがこの漢方です。

「気(エネルギー)」の巡りを改善し、喉や胸のつかえを和らげます。

こんな人に:内視鏡で異常なしと言われた喉の違和感、人前で緊張しやすい、不安が体に出やすい人。


③ 加味逍遙散(24番):ホルモンと気分の乱れに

「逍遙(しょうよう)」とは、あちこち定まらないという意味。

イライラと落ち込みを繰り返すなど、症状が日によって変わる不定愁訴に向いています。

こんな人に:生理前や更年期にメンタルが不安定になる、のぼせがあるのに手足は冷える人。

3. 【番外編】不眠・動悸・胃痛には?隠れた名薬4選

基本の3剤ではカバーしきれない症状、特に不眠・動悸・消化器症状には、以下の漢方が使われます。

項目柴胡加竜骨牡蛎湯加味帰脾湯酸棗仁湯六君子湯
番号12番137番103番43番
キーワード男性・動悸貧血・寝不足中途覚醒胃痛・吐き気
特徴ドシッと心を鎮める。
高血圧気味の人に。
胃腸と心を元気に。
クヨクヨ悩む人に。
漢方版の睡眠薬。
目が冴える時に。
抗うつ薬(SSRI)の
吐き気止めとして。

④ 柴胡加竜骨牡蛎湯(12番):男性ストレスの切り札

「竜骨(化石)」と「牡蛎(カキ殻)」というミネラル成分が、気持ちをドシッと鎮めます。

仕事のプレッシャーが強い男性で、「動悸がする」「カーッとなる」「眠れない」といった症状に向いています。


⑤ 加味帰脾湯(137番):お疲れタイプの不眠に

胃腸を整えてエネルギー(血)を補いながら、心を安定させる漢方です。

抑肝散が「元気があって怒りっぽい人」向けなら、こちらは元気がなくクヨクヨしがちな不眠向けです。


⑥ 酸棗仁湯(103番):自然な眠りに近づける漢方

体は疲れているのに、頭だけが冴えて眠れない――

そんなときに使われます。

「漢方版の睡眠薬」と表現されることもありますが、実際には体の興奮を鎮め、自然な眠りに近づける漢方です。

睡眠薬を減らしたいときのクッションとして使われることもあります。


⑦ 六君子湯(43番):SSRIの名パートナー

本来は胃薬ですが、精神科では抗うつ薬(SSRI/SNRI)の吐き気止めとして併用されることが多い漢方です。

食欲ホルモン「グレリン」を増やし、ストレス性の胃痛や食欲不振を改善します。

4. 「漢方なら副作用はない」は大きな間違い!

漢方は自然由来ですが、立派な医薬品です。

特に注意すべき副作用が2つあります(いずれも頻度は高くありません)。

① 偽アルドステロン症(甘草の摂りすぎ)

多くの漢方に含まれる「甘草」は、摂りすぎると

血圧上昇、むくみ、低カリウム血症(脱力感)

を引き起こします。

複数の漢方を併用している場合(例:抑肝散+葛根湯)には注意が必要です。


② 間質性肺炎

ごく稀ですが、アレルギー反応として起こります。

空咳、息切れ、発熱が急に出た場合は、すぐに服用を中止して受診してください。

【補足】抑肝散が合わないときの次の一手

抑肝散は非常に守備範囲の広い漢方ですが、すべてのイライラ・不安に万能というわけではありません

実際の臨床では、「抑肝散を使ってみたけれど、思ったほど楽にならない」というケースも少なくありません。

そんなときは、「効かない=漢方が合わない」と切り捨てるのではなく、症状の質をもう一段階見直すことが重要です。

抑肝散が合いにくい代表的なパターン

① 怒りよりも「不安・緊張」が主体の人

イライラというより、胸が詰まる感じ・息苦しさ・予期不安が前面に出ている場合、抑肝散では力不足なことがあります。

→ 次の選択肢:半夏厚朴湯

気の巡りを改善し、不安が体に出やすいタイプに向いています。

② 胃腸が弱く、下痢や胃もたれが出やすい人

抑肝散でお腹が緩くなる場合は、体力(脾気)が足りていない可能性があります。

→ 次の選択肢:加味帰脾湯/六君子湯併用

まず土台(胃腸)を立て直す方が近道なこともあります。

③ 元気がなく、イライラというより落ち込みが強い人

抑肝散は「高ぶった神経を鎮める」薬のため、エネルギー不足タイプには合わないことがあります。

→ 次の選択肢:加味逍遙散/加味帰脾湯

ホルモンや疲労が絡むケースでは、こちらの方がしっくりくることがあります。

④ 動悸・焦燥感が強い男性のストレス症状

怒りよりも「胸がザワザワする」「心臓が落ち着かない」場合は、別ルートが有効です。

→ 次の選択肢:柴胡加竜骨牡蛎湯

気持ちをドシッと鎮める方向に切り替えます。

大切な考え方

抑肝散が合わなかったからといって、漢方そのものが合わないとは限りません

漢方は「当たり外れ」ではなく、ズレの修正です。

効かないと感じたときこそ、

「症状の中心は何か」「怒りなのか、不安なのか、疲労なのか」

を見直すことで、次の一手が見えてきます。

【深掘り編】精神科漢方が効かない人の見極め

―「漢方が悪い」のではなく、「出番が違う」だけ―

漢方薬は精神科領域でも非常に有用ですが、万能ではありません

「合えば効く」「自然だから安全」というイメージが先行しがちですが、実際には向いている状態・向いていない状態がはっきり存在します。

ここでは、現場で見えてくる

「精神科漢方が効きにくい人の特徴」を、少し踏み込んで整理します。


見極め① 症状の「重さ」が漢方の守備範囲を超えている

漢方が力を発揮しやすいのは、

・症状に波がある

・良い時間帯と悪い時間帯がある

・ストレスや体調で増減する

といったケースです。

一方で、

・朝から晩まで抑うつ・不安が途切れない

・一日中気分が底打ちしている

・「少し楽な時間」がほとんどない

場合、体質の乱れというより脳機能の持続的低下が疑われます。

この段階では、漢方単独よりも抗うつ薬など西洋薬を治療の土台にする必要があります。


見極め② 希死念慮・切迫感がある

これは最重要ポイントです。

・「消えてしまいたい」という考えが繰り返し浮かぶ

・強い不安や焦燥感でじっとしていられない

・パニック発作が頻発し、生活が破綻している

このような状態では、漢方のみで対応するのは不適切です。

漢方は安全性の高い薬ですが、緊急性の高い症状を即座に止める力はありません

命に関わる可能性がある場面では、西洋薬や専門的な医療介入を優先する必要があります。


見極め③ 症状が「性格・思考のクセ」と強く結びついている

・完璧主義

・自己否定が強い

・考えがグルグル止まらない

このタイプでは、症状の主因が「体」よりも認知や思考パターンにあります。

漢方で体調が多少整っても、効果実感が乏しいことがあります。

この場合は、

心理療法(認知行動療法など)との併用が治療の軸になります。

漢方だけで何とかしようとすると、限界を感じやすくなります。


見極め④ 服薬・生活リズムが安定していない

意外と多いのがこのパターンです。

・飲んだり飲まなかったり

・数日で「効かない」と判断

・睡眠や食事のリズムが崩れている

漢方は続けて初めて評価できる薬です。

最低でも

・同一処方を2〜4週間

・ある程度整った生活リズム

が必要です。

これが満たされないと、「効かない」のかどうかすら判断できません。


見極め⑤ 実は「漢方が合っていない」だけのケース

抑肝散が効かなかったからといって、

「漢方そのものが合わない」とは限りません

・怒りではなく不安が主体

・疲労やホルモン要因が強い

・胃腸虚弱が見落とされている

こうしたズレを修正すると、

処方変更だけで一気に効き出す人も少なくありません。

漢方は「当たり外れ」ではなく、証の微調整です。


まとめ:漢方が効かないのではなく「出番が違う」

精神科漢方は

・軽〜中等度

・波のある症状

・体質や自律神経が絡む不調

に非常に強い一方で、

・重症

・切迫

・固定化した抑うつ

には単独では不十分なことがあります。

漢方で足りない部分を、西洋薬や心理療法で補う。

それは妥協ではなく、治療の最適化です。

7. まとめ:西洋薬とうまく組み合わせよう

漢方薬は即効性の薬ではなく、ストレスに負けにくい体の土台を作る薬です。

イライラ・怒り → 抑肝散(54)

不安・喉のつまり → 半夏厚朴湯(16)

ホルモンの波 → 加味逍遙散(24)

男性ストレス・動悸 → 柴胡加竜骨牡蛎湯(12)

疲れすぎ不眠 → 加味帰脾湯(137)/酸棗仁湯(103)

漢方で体質を整えつつ、どうしても眠れない夜だけは依存性の少ない新しい睡眠薬を最小限使う

それも、現実的で賢い選択肢の一つです。

「漢方という選択肢はありますか?」

そう一言相談するだけで、治療の幅は大きく広がります。

「漢方薬で体質改善をしつつ、どうしても眠れない夜だけは『依存性の少ない新しい睡眠薬』を頼るのも賢い方法です。」

\ 添付文書にはない「現場の知恵」 /

腎機能による投与量、粉砕・簡易懸濁の可否、妊婦への安全性……。添付文書には載っていないけれど「今すぐ知りたいこと」が詰まっています。記事執筆の裏付けとしても愛用している、薬剤師にとっての「バイブル」であり、家庭や職場に一冊あると安心な「お守り」です。

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この記事を書いた人

ドラッグストア併設調剤薬局で十余年勤務してるうさぎ好き薬剤師。
ブログ『薬剤師の処方解析ノート』では、若手〜中堅の薬剤師さんに向けて、日々の処方意図を読み解く「思考プロセス」を記録しています。
現場で直面する疑問や、教科書プラスアルファの知識をシェアします。一緒に臨床力を高めていきましょう。

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