「睡眠薬といえばデエビゴ」
そんな時代が少し前まで続いていましたが、2024年以降、新しいオレキシン受容体拮抗薬が立て続けに登場し、選択肢が一気に広がりました。
特に「2025年に登場した新薬『ボルズィ(一般名:ボルノレキサント)』」は、これまでの睡眠薬の常識を覆す「ある特徴」を持っており、現場でも指名買いならぬ「指名処方」が増えています。
今回は、元祖「ベルソムラ」、王道「デエビゴ」、そして新星「クービビック」「ボルズィ」の4剤について、薬剤師が知っておくべき使い分けのポイントを徹底解説します。
\ 添付文書にはない「現場の知恵」 /
1. 【メカニズム解説】なぜオレキシン薬は「自然に眠れる」のか?
比較に入る前に、そもそもこの「オレキシン受容体拮抗薬」が、なぜこれほど画期的なのかをおさらいしておきましょう。
一言で言えば、「脳をシャットダウンするのではなく、覚醒スイッチをOFFにする」からです。
従来の薬(ベンゾ系)との決定的な違い
これまでの睡眠薬(ハルシオン、レンドルミンなど)は、「GABA」というブレーキ役の神経に働きかけ、脳全体の機能を強制的に低下させて(鎮静させて)眠らせていました。
例えるなら、「走っている車のブレーキを力いっぱい踏む」ようなものです。
- メリット:強力に眠れる。
- デメリット:依存性がつきやすく、睡眠の質(レム睡眠・ノンレム睡眠のリズム)が乱れやすい。
オレキシン薬(デエビゴたち)の働き
一方、「オレキシン」とは、脳が目覚めている状態を保つための「覚醒物質」です。
デエビゴやボルズィなどのオレキシン薬は、この覚醒物質が受容体にくっつくのをブロック(拮抗)します。
例えるなら、「アクセルから足を離す」イメージです。
無理やり止めるのではなく、「起きろ!」という命令を遮断することで、「脳が勝手に眠くなる(自然な睡眠)」へと導きます。
だからこそ、依存性が極めて低く、生理的な睡眠リズムに近い「質の良い眠り」が得られるのです。
この「自然な眠り」へ導く4つの兄弟たちを、詳しく見ていきましょう。
番外編:薬の効果を「最大化」させる入浴法
オレキシン薬は「自然な眠り」をサポートしてくれますが、あくまでスイッチを押すだけです。 さらに睡眠の質を高め、薬の効果を最大化させるには、体温調節などの「生活習慣のハック」が欠かせません。
特に、この本で紹介されている「黄金の90分」の法則(寝る90分前にお風呂に入るなど)は、オレキシン薬のメカニズムとも非常に相性が良いです。 「薬を飲んでいるのにスッキリ起きられない」という方は、薬を変える前に一度このメソッドを試してみてください。 睡眠薬の切れ味が驚くほど変わるかもしれません。
2. 【保存版】オレキシン4兄弟 スペック比較表
4剤ともメカニズムは同じですが、最大の違いは「キレ(半減期)」と「運転の可否」です。
※スマホの方は横にスクロールできます。
| 特徴 | ボルズィ (New!) | クービビック (準新薬) | デエビゴ (今の主役) | ベルソムラ (元祖) |
|---|---|---|---|---|
| 一般名 | ボルノレキサント | ダリドレキサント | レンボレキサント | スボレキサント |
| 発売 | 2025年11月 | 2024年 | 2020年 | 2014年 |
| 通常用量 | 5mg〜10mg | 50mg | 5mg〜10mg | 20mg (高齢者は15mg) |
| 半減期 | 約2〜3時間 (超速効型) | 約6.6時間 (バランス型) | 約17時間 (長く効く) | 約12時間 (長く効く) |
| 強み | 翌日に残らない 運転の制限緩和 | 日中の機能維持 悪夢が少ない? | 入眠+維持の パワーが最強 | 中途覚醒に強い 実績豊富 |
| 弱点 | 中途覚醒には弱いかも 14日制限あり | 特になし (優等生すぎる?) | 悪夢・金縛り 持ち越し | 食事の影響 (吸収低下) |
| 運転 | 注意して可 (条件付き) | 禁止 | 禁止 | 禁止 |
3. 各薬剤のキャラクター解説(処方意図の深掘り)
① ボルズィ(ボルノレキサント):ついに「条件付きで運転可」の睡眠薬が登場!
▶ 超短時間型オレキシン拮抗薬。翌朝に残りにくく、生活制限を最小化できるのが最大の武器
2025年11月27日に発売されたばかりの最新薬です。
この薬の最大の特徴は、オレキシン薬として(というより睡眠薬全体として)画期的な「自動車運転の制限緩和」です。
▼添付文書の革命
これまでの睡眠薬は、翌朝に眠気がなくても一律で「運転に従事させないこと(禁止)」と書かれていました。
しかし、ボルズィの添付文書には以下のように記載されています。
「本剤の影響が翌朝以後に及び、眠気、注意力・集中力・反射運動能力等の低下が起こることがあるので、自動車の運転等の危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意すること」
つまり、「翌朝に持ち越し(眠気)がないことを確認できれば、運転も可能」という判断ができるようになったのです。
半減期が約2〜3時間と非常に短く、朝にはスパッと抜けているからこそ許された特権です。
⚠ 薬剤師の注意点:14日処方制限
ただし、新薬ですので発売から1年間(2026年11月末まで)は「投薬期間は14日まで」の制限があります。
「忙しいから30日分出して」と言われても出せませんので、受付時の確認を徹底しましょう。
② クービビック(ダリドレキサント):日中のパフォーマンス重視
▶ 効かせすぎず残さない。睡眠と日中機能の両立を狙う“ちょうどいい”オレキシン薬
「デエビゴだと朝だるい」「ベルソムラだと効きが悪い」
そんな患者さんの受け皿として優秀なのがクービビックです。
▼「生活の質」を上げる薬
半減期は約6〜7時間と、デエビゴの半分以下です。
これにより、「夜はしっかり眠れるけど、朝には抜けていて、日中の活動(仕事や家事)に支障が出にくい」というバランスの良さが売りです。
「悪夢」の頻度もデエビゴより少ないという印象があり、切り替え候補として定着しつつあります。
※ただし、こちらは運転は「禁止」のままですので注意してください。
③ デエビゴ(レンボレキサント):やはり「最強」のパワー
▶ 入眠も中途覚醒も一気に抑えるパワー型。とにかく「今夜寝かせたい」場面の切り札
新薬が出ても、デエビゴの地位は揺るぎません。
理由はシンプルで、オレノキシン受容体(特にOX2R)への結合が強く、臨床的に効いた実感を得やすいからです。
オレキシン受容体(特にOX2R)への結合力が強いことにより、入眠から睡眠維持までフルカバーします。
「とにかく今夜寝たいんだ」という切実な訴えには、やはりデエビゴがファーストチョイスになります。
副作用の「悪夢・金縛り」を事前に説明し、心の準備をしてもらうことが服薬指導のカギです。
④ ベルソムラ(スボレキサント):食事に注意のベテラン
▶ 効きは穏やかだが安全域が広い。高齢者や肝機能配慮が必要な症例で今も現役
元祖オレキシン薬。
デエビゴほどのキレはありませんが、マイルドで自然な眠りを好む患者さんや、高齢者には根強い人気があります。
▼唯一の弱点:食事の影響
ベルソムラ最大の敵は「夕食」です。
食後に服用すると血中濃度が上がりにくくなるため、必ず「寝る直前(できれば空腹時)」に飲むよう指導が必要です。
4. 【プロ向け】高齢者・腎・肝機能による用量調節まとめ
薬剤師として添付文書で一番確認する頻度が高いのがここです。
薬剤名で横並びに比較すると、「ベルソムラだけ高齢者制限がある」「肝機能重度ではベルソムラ以外全滅」という違いが浮き彫りになります。
※スマホの方は横にスクロールできます。
| 項目 | ボルズィ | クービビック | デエビゴ | ベルソムラ |
|---|---|---|---|---|
| 高齢者 (65歳以上) | 規定なし (5mg〜) | 規定なし (50mg) | 規定なし (5mg〜) | 上限15mg (※20mg不可) |
| 腎機能障害 (透析含む) | 調整不要 | 調整不要 | 調整不要 | 調整不要 |
| 肝機能障害 (中等度) | 2.5mgに減量 | 25mgに減量 | 5mg上限 | 慎重投与 |
| 肝機能障害 (重度) | 禁忌 | 禁忌 | 禁忌 | 慎重投与 (※禁忌ではない) |
⚠ 薬剤師の指導ポイント
- ベルソムラの「15mg」の壁
- 唯一、高齢者への用量制限(20mg→15mg)が明記されています。高齢者に20mgが処方されていたら疑義照会対象です。
- 肝臓が悪いならベルソムラ?
- デエビゴ以降の3剤は重度肝機能障害で「禁忌」ですが、ベルソムラだけは「慎重投与」にとどまっています。肝硬変などの患者さんにはベルソムラが選ばれる理由がここにあります。
- 腎臓にはみんな優しい
- オレキシン薬は主に肝代謝・糞中排泄のため、腎機能低下患者さんでも用量調節なしで使えるのが強みです。
まとめ:医師の処方意図を読み解こう
4剤の使い分けをフローチャートで整理します。
- 「車を運転する」「朝早く起きたい」「短時間型がいい」
➡ ボルズィ(※14日制限に注意) - 「日中のだるさを無くしたい」「デエビゴは強すぎた」
➡ クービビック - 「とにかく寝付きも中途覚醒も全部治したい」
➡ デエビゴ - 「マイルドに効かせたい」「副作用リスクを抑えたい」「肝機能が心配」
➡ ベルソムラ(※空腹時に服用)
「オレキシン=デエビゴ」という時代は終わり、患者さんのライフスタイルに合わせて薬を選ぶ時代になりました。
特に「運転」を気にする現役世代にとって、ボルズィは救世主になり得ます。
処方名だけで判断せず「なぜオレノキシン薬が選ばれたのか」を考えられる薬剤師は睡眠薬領域で確実に信頼されます。
それぞれの個性を把握して、最適な服薬指導に繋げてください。
「もし西洋薬の副作用が心配な方や、まずは優しい薬から始めたいという方は、精神科でよく使われる漢方薬という選択肢もあります。」

日々アップデートされる医療知識や新薬の情報、今の職場で十分に活かせていますか?
「勉強しても評価につながらない」「職場が新薬の採用に消極的」 そんなルーチンワークばかりの日々に、もどかしさを感じているなら――。
環境を変えるのも一つの手です。あなたのスキルを必要としている場所は他にあります。
日本調剤グループの「ファルマスタッフ」なら、専門性の高い薬局や、年収600万円以上の好条件求人を豊富なデータベースから探せます。
転職する気がなくても、まずは「今の自分の市場価値(適正年収)」を知っておくだけで、将来の選択肢がぐっと広がりますよ。

コメント