GLP-1受容体作動薬はなぜ痩せる?
〜5大製剤(オゼンピック・マンジャロ・ウゴービ・ゼップバウンド・リベルサス)を薬剤師が徹底解説〜
「先生、最近流行りの『痩せる注射』ってうちで買えませんか?」
「美容クリニックでリベルサスをもらってるけど、飲み方が面倒で…」
最近、薬局の窓口でこうした相談を受ける機会が明らかに増えました。SNSを中心に「医療ダイエット」として爆発的に広まった GLP-1受容体作動薬。
しかし2026年現在、旧来薬(ビクトーザなど)の販売終了、新薬(ゼップバウンド)の登場、世界的な供給不足が重なり、現場の混乱はむしろ強まっている印象があります。さらに、「美容目的の使用により、本当に必要な糖尿病患者さんに薬が届かない」という倫理的な問題も、いまだ解決していません。
本記事では、現在話題となっている 5大GLP-1関連製剤(オゼンピック・マンジャロ・ウゴービ・ゼップバウンド・リベルサス)について、なぜ痩せるのか(薬理)、薬剤ごとの決定的な違い、2026年時点の現場事情と注意点を、現役薬剤師の視点で整理します。
※本記事は医療従事者・薬剤師向けの内容を中心に解説しています。一般の方にも理解できるよう配慮していますが、一部専門的な表現を含みます。
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1. 【薬剤師向け】なぜ痩せる?GLP-1の薬理作用を整理する
一般向けには「痩せホルモン」と説明されがちなGLP-1ですが、プロとしてはもう一段深いメカニズムを押さえておく必要があります。GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は、インクレチンと呼ばれる消化管ホルモンの一種です。
① 膵臓への作用(血糖依存性インスリン分泌)
GLP-1受容体が刺激されると、β細胞内のcAMP濃度が上昇し、血糖値が高いときだけインスリン分泌が促進されます。血糖値が低い場合にはインスリン分泌を促さないため、単独使用では 低血糖リスクが極めて低い ことが、SU剤との最大の違いです。
② 胃への作用(胃排泄遅延)
減量効果の主要メカニズムの一つです。迷走神経を介して胃の蠕動運動を抑制し、食物を胃内に長時間とどめることで、食後の満腹感が持続し、食事量が自然に減少します。一方で、この作用が 初期の強い悪心・胃もたれ・嘔吐 の原因にもなります。なお、胃排泄遅延は用量依存的であり、適切な漸増を行うことで多くの場合は耐性が形成され、消化器症状は軽減していきます。
③ 中枢への作用(食欲抑制)
GLP-1は血液脳関門を通過、あるいは迷走神経求心路を介して視床下部(弓状核など)の満腹中枢に作用します。その結果、「我慢して食べない」のではなく、脳が満腹だと錯覚する状態が作られ、摂取カロリーが低下します。
2. 【徹底比較】注射薬4剤+飲み薬1剤のスペック整理
2026年現在、日本で主に流通しているGLP-1関連薬を一覧化しました。適応(糖尿病/肥満症)と成分の対応関係が重要です。
※スマホの方は横にスクロールできます。
| 薬剤名 | オゼンピック | ウゴービ | マンジャロ | ゼップバウンド | リベルサス |
|---|---|---|---|---|---|
| 剤形 | 注射(週1回) | 注射(週1回) | 注射(週1回) | 注射(週1回) | 経口(毎日) |
| 成分 | セマグルチド | セマグルチド | チルゼパチド | チルゼパチド | セマグルチド |
| 適応 | 糖尿病 | 肥満症 | 糖尿病 | 肥満症 | 糖尿病 |
| 分類 | GLP-1単独 | GLP-1単独 | GIP/GLP-1 | GIP/GLP-1 | GLP-1単独 |
| 減量効果 | 高い | 高い | 最強 | 最強 | 中〜高い |
| 保険適用 | ○ | △(条件あり) | ○ | △(条件あり) | ○ |
| 特徴 | スタンダード | 高用量版 | ツインターボ | 肥満症専用 | 注射が苦手な人 |
3. 各薬剤の臨床的な違いと押さえるべきポイント
GLP-1関連製剤は一見すると似ていますが、作用の強さ・副作用プロファイル・使いどころは明確に異なります。
① オゼンピック & ウゴービ(セマグルチド):今のスタンダード
「オゼンピック(糖尿病用)」と「ウゴービ(肥満症用)」は、中身の成分は同一(セマグルチド)です。
両者の違いは、主に適応と用量設定にあります。
ウゴービの最大の特徴は、糖尿病用であるオゼンピックよりも高用量(最大2.4mg)まで設定されている点です。その分、体重減少効果は高く設計されています。
一方で、肥満症に対する保険適用には明確なハードルがあります。
「BMI35以上」または「BMI27以上かつ肥満関連合併症を2つ以上有する」という厳格な条件が定められており、美容目的での使用は原則として全額自費となります。
臨床的には、週1回投与によるアドヒアランスの良さと、消化管副作用のバランスが比較的穏やかな点から、GLP-1製剤の“入り口”として選択されやすいスタンダードな位置づけの薬剤です。
② マンジャロ & ゼップバウンド(チルゼパチド):次元が違う「ツインターボ」
ここが、薬理学的に最も重要なポイントです。
マンジャロおよびゼップバウンドは、GLP-1受容体だけでなく、「GIP」という別のインクレチン受容体も同時に刺激する製剤です。
メカニズム(Twincretin)
- GLP-1:食欲抑制 + 胃排泄遅延 + 血糖降下
- GIP:脂肪代謝の改善 + グルカゴン制御
本来、GIPは「脂肪を溜め込むホルモン」として理解されてきました。しかし、GLP-1と同時に刺激することで、なぜか相乗的に強い抗肥満効果を発揮することが分かってきています。
この二重作用により、チルゼパチド製剤はGLP-1単独製剤を上回る、非常に強力な体重減少効果を示します。その反面、悪心・嘔吐・下痢といった消化管副作用も出やすく、用量漸増を急がないことが極めて重要です。
ゼップバウンドの登場(2025年〜)
ゼップバウンドは、マンジャロの「肥満症用」として承認された製剤で、中身はマンジャロと同一成分です。
「マンジャロは糖尿病患者に優先し、肥満症にはゼップバウンドを使用する」という棲み分けが期待されていますが、製造ラインは共通であるため、供給不足が完全に解消されているわけではありません。
③ リベルサス(経口セマグルチド):飲み薬の革新と落とし穴
「注射は怖い」という層に人気の経口GLP-1製剤ですが、薬剤師としては最も服薬指導が難しい薬と言えます。
本来、ペプチドホルモンは胃酸で分解されてしまいますが、リベルサスは「SNAC」という吸収促進剤を配合することで、奇跡的に胃からの吸収を可能にしました。ただし、その吸収率は極めて低く、服用方法を1つでも誤ると十分な効果が得られません。
【服薬指導の最難関ポイント】
以下のルールを守れない場合、「ただの高いラムネ」になります。
- 起床時、完全空腹時に服用する
- 水は約120mL以下(多すぎると希釈され吸収低下)
- 服用後30分間は飲食禁止(二度寝・他剤服用もNG)
これを毎日継続できるかどうかが、効果の分かれ目です。
特に高齢者や多剤併用患者では、生活リズムや服薬状況を含めて慎重に適応を判断する必要があります。
④ 患者タイプ別・どのGLP-1製剤が向くか(実務的整理)
GLP-1製剤の選択で重要なのは、「一番痩せる薬」ではなく、安全に、継続して使えるかどうかです。
- 初めてGLP-1製剤を使う患者 → オゼンピック/ウゴービ(副作用バランス重視)
- 既存GLP-1で効果不十分な患者 → マンジャロ/ゼップバウンド(副作用管理が前提)
- 高齢者・低栄養リスクのある患者 → 急激な減量に注意。低用量から慎重にフォロー
- 注射への抵抗が強い患者 → リベルサス(服薬管理能力を慎重に評価)
- 美容目的・短期減量希望の患者 → 適応・リスクを十分説明し、安易な使用は避ける
GLP-1製剤は「薬の強さ」で選ぶものではなく、患者背景・生活習慣・リスクを含めた総合判断が不可欠です。薬剤師としては、処方内容の裏にある意図を読み取り、必要に応じて医師への情報提供や疑義照会を行う役割が求められています。
4. 2026年の現場事情:ビクトーザ終了と供給問題
※本章は、薬剤師としての現場実感・業界動向に基づく考察です。
ビクトーザ販売終了により週1回製剤へ需要が集中し、ゼップバウンド登場でさらに需要が掘り起こされています。原薬レベルでの世界的供給不足は現在も続いており、「肥満症薬が出たから解決」という状況ではありません。
5. まとめ:GLP-1は「魔法」ではなく、管理が必要な強力な薬
GLP-1受容体作動薬は、心血管イベントのリスクを低下させるエビデンスを持つ、非常に画期的な薬です。一方で、その効果の強さゆえに、安易な美容目的での使用には明確なリスクが伴います。
急性膵炎や腸閉塞は頻度こそ高くありませんが、見逃せない重篤な副作用です。また、体重減少に伴い筋肉量が低下することで、サルコペニア(筋肉減少)を助長し、結果として「痩せにくく太りやすい体」になる可能性もあります。さらに、急激な減量による皮下脂肪の減少は、いわゆるオゼンピック・フェイスと呼ばれる外見上の変化を引き起こすこともあります。
薬局窓口で相談を受けた際には、適応・保険・副作用・供給状況を整理したうえで、必要に応じて医師への情報提供や疑義照会を行うことが、私たち薬剤師の重要な役割です。
マンジャロやオゼンピックは、まず本当に必要な糖尿病患者さんへ。 そして使用する場合も、必ず医療従事者の管理下で行われるべきです。
※本記事は、公開文献・一般的薬理知識および薬剤師としての臨床的推論に基づいています。
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