「太る・震える・ムズムズする」副作用から逆引きする抗精神病薬マップ
「幻覚や妄想を抑える薬です」
統合失調症の薬を渡すとき、その一言だけで終わらせていませんか?
抗精神病薬には多くの種類がありますが、現在の臨床現場で中心となって使われているのは
リスパダール・ジプレキサ・セロクエル・エビリファイの4剤です。
これらは一見「同じような薬」に見えますが、
実際には得意な症状・苦手な患者・注意すべき副作用が大きく異なります。
本記事では、まず統合失調症の病態を「ドパミンのシーソー」として整理し、
そのうえで主要4剤を副作用から逆引きできるよう、薬剤師視点で使い分けを解説します。
\ 添付文書にはない「現場の知恵」 /
1. まずは「病態」を知る:脳内で何が起きている?

統合失調症の病態は完全には解明されていませんが、
現在もっとも有力なのがドパミン仮説です。
ポイントは、
脳全体でドパミンが増えている/減っているのではなく、「場所によって過不足がある」という点です。
中脳辺縁系:ドパミン過剰 → 陽性症状
脳の深部(辺縁系)でドパミンが過剰になり、
幻聴・妄想・被害関係念慮といった陽性症状が出現します。
▶ 治療の狙い:ドパミンをしっかり遮断する
中脳皮質系:ドパミン不足 → 陰性症状
一方、前頭葉などではドパミンが不足し、
意欲低下・感情鈍麻・引きこもりといった陰性症状が目立ちます。
▶ 治療の難しさ:遮断しすぎると陰性症状が悪化する
※抗精神病薬は
「中脳辺縁系は抑えたいが、中脳皮質系は抑えすぎたくない」
という綱渡りのバランス調整を行っています。
2. 【一目でわかる】4剤のスペック・副作用比較
「効きの強さ」と「副作用のリスク」を整理しました。
横に並べることで、それぞれの得意・不得意が比較しやすくなっています。
※スマホの方は横にスクロールできます。
| 項目 | リスパダール | ジプレキサ | セロクエル | エビリファイ |
|---|---|---|---|---|
| 分類 | SDA | MARTA | MARTA | DPA |
| 陽性症状 (幻聴など) | ◎ (強い) | ◎ (強い) | △〜○ | ○ (調整役) |
| 鎮静 (眠気) | ○ | ◎ (強い) | ◎ (強い) | △ (不眠注意) |
| 錐体外路 (震え) | 多い | 少ない | 極少 | 少ない |
| 体重増加 (代謝) | △ | 激増 (⚠ DM禁忌) | 多い (⚠ DM禁忌) | 極少 |
| プロラクチン (生理不順) | 多い | 少ない | 極少 | なし |
※記号の目安 ◎:非常に強い/多い、○:ある、△:少ない/弱い
※SDA:セロトニン・ドパミン拮抗薬
※MARTA:多元受容体作用抗精神病薬
※DPA:ドパミン部分作動薬
3. 【キャラクター別】どの患者にどの薬?
「結局、どんな患者にどれが合うのか?」
臨床でよくある患者像に当てはめて整理します。
※実際の処方では、症状の強さだけでなく年齢・代謝疾患・服薬継続性が最終決定因子になります。
※スマホの方は横にスクロールできます。
| 項目 | リスパダール | ジプレキサ | セロクエル | エビリファイ |
|---|---|---|---|---|
| 特徴 | THE・王道 迷ったらコレ | 剛腕パワー 痩せた暴れん坊に | 高齢者の味方 優しさNo.1 | スマート調整役 現代風の第一選択 |
| ドンピシャ (向く人) | ■幻聴・妄想が強い ■薬を拒否する人 (液剤・注射あり) | ■興奮して暴れる ■痩せて消耗中 ■全く眠れない | ■パーキンソン症状 ■高齢者 (せん妄) ■震えやすい人 | ■太りたくない ■陰性症状 ■うつっぽい |
| 注意点 (鬼門) | ⚠ 若い女性 (生理不順) ⚠ 震えが出やすい人 | ⚠ 糖尿病 [禁忌] ⚠ 太り気味の人 | ⚠ 糖尿病 [禁忌] ⚠ 転倒リスクが高い (ふらつき) | ⚠ 焦燥感が強い人 (アカシジア悪化) ⚠ 不眠が強い人 |
4. 各薬剤の詳細解説と指導のコツ
ここからは主要4剤について、
①薬理的キャラクター → ②臨床で選ばれる理由 → ③薬剤師が押さえる指導ポイント
の順で整理します。
① リスパダール(リスペリドン):基本にして王道のSDA
リスパダールは、ドパミンD2受容体とセロトニン5-HT2A受容体をバランス良く遮断する、SDA(セロトニン・ドパミン拮抗薬)の代表格です。
陽性症状(幻聴・妄想)に対する効果が確実で、「まず症状を抑える」必要がある場面では今なお第一選択として使われます。
ここがポイント:剤形の豊富さ=服薬継続力
通常錠・OD錠に加え、無味無臭で混ぜやすい内用液、2週・4週持続のLAI(持効性注射)まで揃っており、拒薬・飲み忘れ・病識が乏しい患者に対して「次の一手」を選びやすい薬剤です。
⚠ 指導の注意点:高プロラクチン血症
ドパミン遮断が強いため、乳汁分泌・月経異常・性機能障害が起こりやすい点が弱点です。
特に若年女性では、「生理の周期、変わっていませんか?」と踏み込みすぎない聞き方で拾う配慮が重要です。
② ジプレキサ(オランザピン):剛腕で抑えるMARTA
ジプレキサは、複数の受容体を強力に遮断するMARTA(多元受容体作用抗精神病薬)です。
鎮静作用が非常に強く、興奮・不穏・攻撃性が前面に出ている急性期では、即効性のある切り札として使われます。
ここがポイント:ザイディス錠の扱い
口腔内崩壊錠(ザイディス錠)は崩壊が非常に速く、拒薬対策として有用ですが、湿気を極めて吸いやすく一包化には不向きです。
服用直前に開封する前提で扱う必要があります。
⚠ 指導の注意点:高血糖・DKA
強烈な食欲増進とインスリン抵抗性悪化により、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)による死亡例が報告されています。
そのため糖尿病患者には禁忌です。
「異常な口渇」「甘い飲み物を大量に欲する」は初期の危険サインとして必ず伝えましょう。
③ セロクエル(クエチアピン):用量で役割が変わる「カメレオン型MARTA」
セロクエルはジプレキサと同じMARTAですが、ドパミンD2受容体からの解離が速いという特徴があります。
このため、用量によって作用の顔が大きく変わる薬剤で、臨床では「カメレオン作用」と表現されます。
ここがポイント:用量依存の役割変化
・少量(25mg前後):鎮静・睡眠改善(ヒスタミン遮断主体)
・中用量(100〜200mg):抗うつ的・気分安定的作用
・高用量(300mg以上):抗精神病作用(陽性症状抑制)
1剤で「睡眠・気分・精神病症状」をカバーできる、非常にユニークなポジションの薬です。
⚠ 指導の注意点:起立性低血圧・転倒
α1遮断作用により立ちくらみ・ふらつきが起きやすく、高齢者では転倒リスクが高まります。
「立ち上がるときは、いすやベッドに一呼吸おいてから」という一言が骨折予防につながります。
④ エビリファイ(アリピプラゾール):止めずに整える異端のDPA
エビリファイは、ドパミンを完全に遮断せず、部分的に刺激しながら調整するドパミン部分作動薬(DPA)です。
ドパミンが多すぎる部位では抑え、少なすぎる部位では補う「調整役」として働きます。
ここがポイント:少量追加(オーグメンテーション)
統合失調症の維持療法だけでなく、陰性症状が目立つ症例や、抗うつ薬が効ききらない場合に少量追加(例:3mg)で使われることがあります。
「意欲や動きを整える目的で少量使っています」と説明できると、患者の納得感が高まります。
⚠ 指導の注意点:アカシジア(静座不能)
足がムズムズしてじっとしていられないなどのアカシジアが出ることがあります。
これは不安悪化ではなく副作用であり、増量すると悪化します。早期の拾い上げが重要です。
この章のまとめ
4剤は「効きの強さ」よりも「副作用の出方」が決定的に異なります。
処方を見たときに「なぜこの薬が選ばれたのか」を副作用から逆算できれば、服薬指導の質は大きく向上します。
5. まとめ:副作用から逆引きする抗精神病薬選択
・高齢者・震えを避けたい → セロクエル(転倒注意)
・太りたくない・意欲低下 → エビリファイ(アカシジア注意)
・興奮が強い・痩せている → ジプレキサ(血糖・体重注意)
・幻覚が強い・拒薬あり → リスパダール(プロラクチン注意)
処方箋を見たとき、
「なぜこの薬なのか」を副作用から逆算できるかで、
服薬指導の質は大きく変わります。
副作用の“兆候”に最初に気づける立場にいるのは、
診察室よりも薬局であることも少なくありません。

「受容体プロファイル」は文字で覚えるな
今回解説したMARTA、SDA、DSSといった分類や、「どの薬が、どの受容体を、どれくらい遮断するか」という受容体結合プロファイル。 これを文字の表だけで丸暗記するのは、正直言って不可能ですし、実践では使えません。
『薬がみえる vol.1』には、各薬剤の受容体親和性が「円グラフ」や「キャラクター」で視覚化されています。 「ジプレキサはここが広いから太りやすい」「エビリファイはここが特殊」といった特徴が、絵を見るだけで脳に焼き付きます。 精神科の処方意図を読み解くために、必須のバイブルです。
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