「漢方なら安全」は危険!芍薬甘草湯と偽アルドステロン症のリスクを薬剤師が解説

はじめに:「とりあえず芍薬甘草湯」に潜む落とし穴

整形外科や内科の処方箋で、「足がつる(こむら返り)」という訴えに対して芍薬甘草湯(68番)が処方される。
調剤薬局の窓口で、毎日1回は遭遇するお決まりの光景ではないでしょうか。

患者さんの中には「漢方薬=副作用が少なく、体に優しい」というイメージを持っている方も少なくありません。

しかし、お薬手帳を見たときに、内科から出ている別の漢方薬や、患者さんが常用している市販の風邪薬・胃薬の存在を見落としてしまうと、取り返しのつかない副作用を招く危険性があります。

それが、今回のテーマである甘草(カンゾウ)の過剰摂取による「偽アルドステロン症」です。

この記事では、「なぜ甘草で血圧が上がり、カリウムが下がるのか?」という薬理学的なメカニズムから、現場で絶対に見逃してはいけない重複リスクのチェックポイントまでをまとめました。

この記事の結論
芍薬甘草湯はこむら返りの特効薬ですが、甘草含有量が1日6gと突出して多く、他の漢方薬や市販薬との重複で偽アルドステロン症(高血圧・低カリウム血症・むくみ)のリスクが一気に高まります。「毎日飲んでいるか(定期)」「つった時だけか(頓服)」の確認と初期症状の見極めが、薬剤師の必須スキルです。詳しくは本文で。

※本記事は薬剤師が添付文書・ガイドラインをもとに作成した情報提供を目的としたものです。治療の最終判断は必ず担当医・薬剤師にご相談ください。

\ 添付文書にはない「現場の知恵」 /


目次

1. 偽アルドステロン症はなぜ起こる?甘草と11β-HSD2の機序

甘草の副作用=低カリウム血症・高血圧、と丸暗記している薬剤師は多いですが、なぜアルドステロンが増えていないのにアルドステロン症と同じ症状が出るのでしょうか?

その鍵を握るのが、甘草の主成分である「グリチルリチン」と、腎臓にある「11β-HSD2」という酵素です。

正常な状態では、副腎皮質から分泌されたコルチゾールは、腎臓の11β-HSD2によって不活性なコルチゾンに変換され、ミネラルコルチコイド受容体(血圧やカリウムを調節するスイッチ)を刺激しないようコントロールされています。

しかし、甘草(グリチルリチン)を過剰に摂取すると、以下の連鎖が起こります。

偽アルドステロン症が発生するメカニズム

  • グリチルリチンが、腎臓の酵素「11β-HSD2」の働きを強力にブロックする
  • 活性を持つコルチゾールが不活化されにくくなり、腎での作用が相対的に強くなる
  • コルチゾールがミネラルコルチコイド受容体を過剰に刺激してしまう
  • 結果として、ナトリウムが体内に貯留し、カリウムが尿中にどんどん排泄される

つまり、アルドステロン自体は増えていないのに、
コルチゾールがアルドステロンの「フリ(偽)」をして暴れ回っている状態
これが偽アルドステロン症の正体です。


2. 偽アルドステロン症の症状とは?低カリウム血症・高血圧・浮腫・ミオパチー

では、この状態に陥ると、患者さんの体には具体的にどのような異変が起きるのでしょうか。
現場でサインを拾うために、代表的な症状を4つ頭に入れておきましょう。

【偽アルドステロン症の代表的な症状】

  • 血圧上昇: ナトリウムと水分の貯留によって血管内のボリュームが増加し、血圧が急上昇します。
  • 浮腫(むくみ): 体に余分な水分が溜まることで、特に顔や下肢などにむくみが生じます。
  • 低カリウム血症: カリウムが尿へ過剰に捨てられることで、血液中のカリウムが不足します。
  • ミオパチー(筋障害): 低カリウム血症により、脱力感や四肢のけいれんが生じ、重症化すると横紋筋融解症に至ることがあります。

「足がつる」のを治すために飲んでいる薬が、めぐりめぐって「四肢のけいれんや脱力感(ミオパチー)」といった、似たような症状をさらに引き起こしてしまうという恐ろしい悪循環に陥るのです。


3. 芍薬甘草湯が偽アルドステロン症で特に注意される理由

偽アルドステロン症の原因として、芍薬甘草湯は特に注意が必要な処方のひとつです。
その理由として、含まれている「甘草の量」が突出していることが挙げられます。

一般的な医療用漢方製剤に含まれる甘草の量は、1日あたり 1.0g〜2.5g 程度です。
しかし、芍薬甘草湯(68番)の甘草含有量は、1日量で「6.0g」にも達します。
これは多くの医療用漢方製剤と比べてもかなり多い量です。

現場のポイント:「予防目的」の漫然投与に注意 
芍薬甘草湯は本来、筋痙攣が起きたときにだけ飲む「頓服薬」としての使用が推奨されています。
しかし、患者さんが「夜中に足がつると怖いから」と、毎晩寝る前に予防として飲み続けてしまっているケースが後を絶ちません。
この「高用量の甘草の連日服用」こそが、偽アルドステロン症の引き金になります。

要注意!「高齢者」は特にハイリスク

高齢の患者さんに芍薬甘草湯が出ている場合は、警戒レベルをワンランク上げてください。腎機能の低下でグリチルリチンが蓄積しやすく、筋肉量の低下でカリウムの余力も少ない。そこにポリファーマシーが重なるため、偽アルドステロン症が一気に発症しやすい状態になっています。

高齢者にリスクが集中する詳しい理由は、このページ下部のFAQ Q5でまとめています。


4.甘草の重複に注意|芍薬甘草湯と他の漢方・OTCの組み合わせ

さらに薬剤師を悩ませるのが、「甘草はありとあらゆる薬に入っている」という事実です。

医療用漢方製剤の約7割に甘草が含まれています。
他科受診で複数の漢方薬が重なった場合、あっという間に甘草の総量オーバーを引き起こします。

注意すべき危険な組み合わせ例

  • 芍薬甘草湯(6.0g) + 抑肝散(1.5g) = 計 7.5g
  • 芍薬甘草湯(6.0g) + 補中益気湯(1.5g) = 計 7.5g
  • 芍薬甘草湯(6.0g) + 小青竜湯(3.0g) = 計 9.0g

特に注意したいのは、整形外科の芍薬甘草湯に、精神科や内科からの抑肝散・補中益気湯、呼吸器や耳鼻科からの小青竜湯が重なるパターンです。「診療科が違うから大丈夫」ではなく、甘草の総量で考えることが大切です。

さらに、処方箋だけを見ていれば安全というわけではありません。
ドラッグストアで買える葛根湯などの市販の風邪薬、パンシロンなどの胃腸薬、さらには肝臓の薬(強力ネオミノファーゲンCなど)にもグリチルリチンがたっぷり含まれています。

お薬手帳の履歴だけでなく、OTC医薬品やサプリメントの服用歴まで確認しなければ、甘草の足し算を防ぐことはできません。


5. 芍薬甘草湯による偽アルドステロン症を見抜くSOAPと服薬指導

血液検査のデータ(客観的情報:O)があればベストですが、データがない場合でも、患者さんの主観的情報(S)から低カリウム血症や偽アルドステロン症の初期サインを拾い上げることが可能です。

S(主観的情報)

  • 「最近、手足がだるくて重い」
  • 「階段を上る時に足に力が入らない」
  • 「何もしていないのにドキドキする(動悸)」
  • 「最近、血圧の薬を飲んでいるのに血圧が高めだ」

これらは、カリウム低下による筋力低下や不整脈、ナトリウム貯留による血圧上昇のサインです。

O(客観的情報)

  • 血液検査でのカリウム値低下(3.5 mEq/L 未満)
  • CK(クレアチンキナーゼ)の急上昇
  • 家庭血圧の急激な上昇、あるいは浮腫の出現

A(評価)& P(計画)

  • 重複による甘草の過剰摂取が疑われる場合、医師に疑義照会を行う。
  • 患者さんへ「漢方薬の足し算は、副作用の足し算になる」ことを分かりやすく説明する。
  • 芍薬甘草湯は「足がつった時だけ飲む」ように服薬指導を徹底する。

受診勧奨のレッドフラッグ 
とくに、急に足に力が入らない、立ち上がれない、動悸がする、むくみが急に強くなったといった症状がある場合は、低カリウム血症や不整脈の可能性もあるため、自己判断で様子を見ずに速やかな受診勧奨が必要です。


6. そのまま使える!芍薬甘草湯の疑義照会フレーズ

甘草の重複や、漫然とした長期処方を見つけた際、医師へ角を立てずに提案するための実践的なフレーズ集です。現場でぜひ活用してください。

① 甘草の重複(他の漢方など)が疑われる時
「お世話になっております。〇〇様の処方についてご確認です。現在、芍薬甘草湯に加えて〇〇(他の漢方薬)も処方されており、甘草の総量が1日〇g程度になる見込みです。偽アルドステロン症のリスクを考慮し、いずれかの減量や中止、あるいは頓服への変更をご検討いただけますでしょうか?」

② 毎日の「定期服用」になっている時
「〇〇様の芍薬甘草湯について確認させてください。患者様のお話を伺うと、予防として毎日欠かさず服用されているようです。甘草の連日摂取による偽アルドステロン症のリスクを考慮し、『足がつった時の頓服』への変更、あるいは休薬日の設定などをご検討いただけますでしょうか?」

③ 窓口で「低カリウム血症のサイン」を拾った時
「〇〇様ですが、最近『強いだるさ(脱力感)』や『血圧の上昇』を訴えておられます。芍薬甘草湯の長期服用による偽アルドステロン症(低カリウム血症)の可能性も考えられますが、一度採血でのご確認や、服薬の見直しをご検討いただけますでしょうか?」

④ 利尿薬を併用している時
「〇〇様の芍薬甘草湯について確認させてください。現在、フロセミド(またはトリクロルメチアジド等)も併用されており、低カリウム血症のリスクが高まる可能性があります。芍薬甘草湯の服用目的がこむら返りであれば、頓服使用への変更や、カリウム値の確認をご検討いただけますでしょうか?」


💊 もう一段深く理解したい方へ
「甘草の重複は分かった。でも、そもそもこの漢方がなぜ処方されているのか自信を持って説明できない」——漢方薬の副作用だけでなく、処方意図や患者さんへの伝え方まで現場目線で学びたい方に向けた一冊です。窓口で漢方の処方箋を受け取るたびに、引き出しが増えていく感覚を味わえます。

7. 芍薬甘草湯と偽アルドステロン症のよくある質問(FAQ)

窓口で患者さんからよく聞かれる疑問や、若手薬剤師が迷いやすいポイントをQ&A形式でまとめました。

Q1. 甘草は1日何gから注意が必要ですか? 

A. 一般的には、「甘草2.5g/日以上」が注意の目安になります。 
ただし、「2.5g未満なら絶対安全」という意味ではありません。服用期間、年齢、腎機能、利尿薬の併用、他の甘草含有製剤との重複によってリスクは変わります。 ツムラの芍薬甘草湯(68番)の場合、1日量(7.5g)の中に甘草が6.0gも含まれており、1日3包で連日服用する場合は特に警戒が必要な製剤です。一方で、1包を頓服で使う場合と、1日3包を連日使う場合ではリスクの大きさが全く異なるため、「服用量」と「服用期間」をセットで確認することが重要です。

Q2. 夜中に足がつるのが怖いから、毎日飲んでもいいですか? 

A. こむら返り目的では、基本的に「つった時」または「つりそうな時」の頓服・短期使用として考えることが多いです。
 毎日予防的に飲み続けると、甘草の連日摂取により偽アルドステロン症のリスクが高まります。 ただし、医師が病態を見て定期服用として処方している場合もあるため、「絶対に飲んではダメです」と自己判断で中止させるのは避けてください。連日服用が続いている場合は、処方意図や採血管理の有無を確認しつつ、「どうしても心配な日は寝る前に1包だけ」など、なるべく連用を避ける工夫を医師・患者さんと共有することが大切です。

Q3. もし偽アルドステロン症になったら、どのくらいで治りますか? 

A. 原因となる甘草含有薬を中止すれば、多くの場合は改善に向かいます。 
厚労省の重篤副作用疾患別対応マニュアルでも、芍薬甘草湯中止後、約10日で浮腫や血清カリウム値などが改善した例が示されています。 ただし、回復までの期間は重症度によって異なります。重症例ではカリウムの補正や入院管理が必要になることもあるため、「脱力感、動悸、強いだるさ、急なむくみ」などのサインを見つけたら、早めの受診勧奨が重要です。

Q4. 甘草(グリチルリチン)が入っている市販薬にはどんなものがありますか? 

A. 市販の漢方薬だけでなく、総合感冒薬、胃腸薬、トローチなどの「一部製品」にも、甘草やグリチルリチン酸類が含まれていることがあります。
 患者さんは「漢方薬ではないから大丈夫」と思っていることも多いため、葛根湯などの風邪薬や、パンシロン、ルル、パブロンシリーズの一部製品など、お薬手帳に載らないOTC薬や健康食品(サプリメント)まで幅広く確認することが重要です。

Q5. なぜ、高齢者は特にリスクが高いと言われるのですか? 

A. 長期服用、併用薬の多さ、利尿薬併用、腎機能低下、脱力症状の見逃しやすさなどが重なりやすいためです。 
特に「長期間の服用」「高齢者」「女性」は、低カリウム血症の発現頻度が高くなる要因として整理されています。 また高齢者では、低カリウム血症による脱力感やふらつきが「転倒・骨折」に直結する恐れがあります。そのため、芍薬甘草湯を「よく効くから」と漫然と使い続けている患者さんでは、血圧、むくみ、体重増加、脱力感、動悸、そして採血状況を若年者以上に丁寧にフォローする必要があります。

まとめ:「漢方なら安全」という思い込みを薬剤師が解く

偽アルドステロン症は、原因に気づいて原因薬(甘草)を中止すれば、速やかに症状が改善する疾患です。

しかし、患者さん自身は「漢方のせいで血圧が上がったり、力が入らなくなっている」とは夢にも思っていません。「漢方=自然の生薬だから安心」という思い込みがあるからです。

複数の病院から出ている漢方薬の足し算、そして市販薬との重複。 この見えないリスクを一つの手帳の上で線に繋ぎ、患者さんにブレーキをかけられるのは、地域医療の要である薬局薬剤師だけです。

「足がつる」というありふれた処方の裏に甘草の大きな罠が潜んでいる。それを見抜ける薬剤師でいることが、患者さんを守る一番の近道だと思っています。

🐰 ウサギ薬剤師のキャリア相談室

その知識、今の職場で「宝の持ち腐れ」になっていませんか?

ウサギ薬剤師

勉強熱心なあなただからこそ、今の環境に物足りなさを感じていませんか?「もっと深い処方解析を現場で活かしたい」「自分の強みが活きる職場でもっと成長したい」……そんな理想の働き方は、環境を変えるだけで叶うかもしれません。
いきなり転職を決めていなくても大丈夫。まずは日本調剤グループ運営で薬剤師専門の「ファルマスタッフ」に、あなたの知識が活きる職場があるか相談してみませんか?

  • 薬剤師専門だから、現場の実情を知ったうえで求人を紹介してくれる
  • 「年収」「休日」「勤務条件」など、希望を丁寧にヒアリングしてプロ目線で提案
  • 日本調剤グループ運営の信頼できるエージェントとして薬剤師に選ばれている

【参考文献】

1. ツムラ芍薬甘草湯エキス顆粒(医療用)添付文書(株式会社ツムラ)
2. 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「甘草含有製剤と偽アルドステロン症に関する安全性情報」
3. 日本東洋医学会「漢方治療ガイドライン」
4. Sabbadin C, et al. “Liquorice-Induced Hypertension and Syndrome of Apparent Mineralocorticoid Excess.” Front Endocrinol. 2019;10:786.


薬剤師として、もう一歩深く学びたい方へ

日々の業務で、
「処方意図はなんとなく分かるけれど、自信を持って服薬指導までつなげきれない……」
と感じることはありませんか?

私が実際に読んでいて「あ、これ明日の指導で使える」と思った雑誌を3冊紹介します。
読み続けると、服薬指導のときの「あの一言」が少しずつ変わってくると思います。
気になるテーマが載っている号があれば、ぜひチェックしてみてください。

1. 調剤と情報

【服薬指導の引き出しを増やす】
新薬情報から服薬指導の具体的なフレーズまで、現場の「どう伝えるか」に直結する一冊。学んだ知識をすぐに実務のアウトプットへつなげたい方、指導の引き出しを増やしたい方におすすめです。

2. 月刊薬事

【処方の「根拠」を深く理解する】
「なぜこの薬なのか?」という医師の思考プロセスや、最新の治療指針を深掘り。処方解析の視点を一段引き上げ、根拠に基づいた疑義照会や服薬指導に役立ちます。

3. 月刊薬局

【特定領域を深く学び、強みに変える】
毎号ひとつのテーマ(疾患・病態)を徹底特集。この記事のテーマをもっと深く学びたい時や、苦手分野を克服して自分の強みにしたい時に頼りになる一冊です。

🐰 忙しい薬剤師さんのための「更新通知」

新しい処方解析の記事が公開されたら、スマホでサクッと読めるようLINEに直接お知らせします。明日からの服薬指導のヒントにどうぞ💊
(※通知オフもいつでもできるので、まずはお気軽にご登録ください✨)

友だち追加
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

ドラッグストア併設調剤薬局で十余年勤務してるうさぎ好き薬剤師。ブログ『薬剤師の処方解析ノート』は、私が日々の業務で「これってなんでだっけ?」「新薬のここが気になる!」と疑問に思い、調べたことをまとめる私のアウトプットの場として運営しています。
私が現場でぶつかったリアルな疑問と調べた知識が、明日からの服薬指導や疑義照会に悩む若手薬剤師さんの「なるほど!」に繋がり、少しでも実務の参考になれば嬉しいです。
🐰 研修認定薬剤師(日本薬剤師研修センター認定)

コメント

コメントする

目次